■ 官から民へ 2006/01/15
日本経済が停滞していた90年代は「失われた10年」と呼ばれ、しばしば暗いイメージで語られます。
しかし、この10年間で私たちの価値観や社会のパラダイムが大きく変化したことも事実です。10以上あった都市銀行が4つになったり、大きな証券会社が倒産することもあるなんて、
1980年代には想像もできなかったことです。 また、戦後の高度経済成長の時代には成功した政府主導の経済運営が行き詰まりを見せました。
政府やその官僚組織は間違いをしないという神話が崩壊したのです。平たく言えば、「お上」の言う通りにしていれば、 まあ間違いはないという市民の意識がすっかり変わってしまいました。
パラダイムシフトが起きる前には、公の仕事を「官」が行い、私的な営みは「民」が行うということが日本の常識でした。しかし、「公と私」という概念は分野の別であり、
「官と民」は運営主体の別を示すものなのです。これまでは、「公」の分野は主に「官」に任せていましたが、「官」の効率の悪さやモラルの低下が目立ってきました。そのため、
「公」の仕事であっても、「民」で行った方が良いのではないか、そのことが「小さな政府」の実現にもつながるのではないかと考えられるようになってきたのです。特に、
事業的なものは硬直的なお役所仕事で行うよりも、民間企業に委託した方が効率的な場合が多いと考えられます。地方自治経営学会の調査によると、
公立直営を100とした場合、民間でやる場合のコストは学校給食で47%、保育所27%、守衛54%、可燃ゴミ収集45%と軒並み半分以下となっています。
このような公共サービスを民間に開放する手法として、「市場化テスト」といわれる手法が欧米では取り入れられてきました。
「市場化テスト」と言っても何のことやら分かりにくいのですが、一言で言えば、公共サービスを「官」と「民」の間で競争入札によって取り合うことです。まず、
官による公共サービスの中で、民間から自分たちでやってみたいという提案のある事業に関して、「官」と「民」の間で競争入札をし、その結果を質と価格で評価するのです。
「官」が落札した場合には官業でも効率が良いということが分かったわけです。逆に、「民」が落札した場合には民間でビジネスのチャンスが増えることになります。
どちらが落札しても公共サービスの効率は良くなるのです。米国では飛行場運営、上下水道管理、刑務所、公共施設管理等に、英国でも公共施設管理の他、
道路維持管理、清掃廃棄物収集処理等に、豪州では旅券申請の受領・手数料徴収、失業者就労支援業務にまで市場化テストが導入されています。
ただし、「市場化テスト」は単に官業の民間開放を進めるためだけの手段ではありません。政府でなければ出来ない分野の正当性を証明し、
それを最小のコストで担っていることを国民に明確に説明する仕組みでもあるのです。実際にも「市場化 テスト」の実施で有名になった米国インディアナポリス市では、
市道の維持補修や車両保守・維持、建物管理などは職員数の削減やコストの削減を行った市の担当部局が落札しています。
何でもかんでも「官」は悪いんだということではないのです。
もちろん、「官」が行う公共サービスを民間に開放すると、これまでは税金を負担しなかった官業が税金を払う民業に振り変わります。
そのことによって、歳入が増加し財政再建の一助にもなるという長所もあります。地方政府も含めて「民で出来ることは民で」という基準で事業を整理し、
国も地方も「小さな政府」を目指すべきです。
日本でも、2005年度から市場化テストのモデル事業が実施されました。実際に、ハローワークの周辺事業を競争入札した結果、
厚生労働省が2003年度に2億8600万円で行った事業を民間業者4社が3分の2の1億9100万円で落札し、9500万円のコストダウンができました。
このように巨額の費用を節約できる市場化テストを一日も早く、しかも周辺業務ではなく、事業の本体でも実施する必要があります。しかしながら、
日本政府は及び腰で、かたちだけの「市場化テスト」でお茶をにごそうとしています。国も地方も「小さな政府」を目指すために本格的な「市場化テスト」を導入すべきであると考えます。
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