■ 年金改革行き最終電車 2005/12/25
米国のブッシュ政権二期目の最大の課題は年金改革と言われていました。既に年金を貰っている高齢者やその予備軍にとって、「給付の切り下げは困る。」とは言え、
高齢化していく先進国では、給付が下がらなければ、保険料を払う若者の負担がうなぎ上りになります。制度が積立方式ではなく、
現役の保険料を高齢者に回す賦課方式で設計されているからです。日本も全く同じ悩みを抱えていますが、2005年から人口そのものが減少するのですから、
日本の深刻さは米国の比ではありません。
昨年の9月にIMFが出した「World Economic Outlook」の中で、「The
last Train for Pension Reform」というショッキングな表現がありました。曰く、「年金改革については、
有権者の過半数が高齢者(50歳以上)になると実行が難しくなると考えられるので、各国とも"last train(最終電車)"が発車するまでに必要な改革を行うべきである。」と。各国の最終電車が発車する時期は米、独、仏が2015年、イタリアやスウェーデンが2020年。
最も遅いのが英国の2040年、早いのがスイスの2010年過ぎとなっています。
スウェーデンは最終電車が発車する20年も前に、確定給付の年金を確定拠出の制度(保険料が一定で、年金運用の巧拙や人口動態の変化などの結果でもらえる年金額が増減する仕組み)に
変えるとともに、全国民に所得比例年金+保証年金(定額年金者)の体系を与える大改革を実施しました。
ブッシュ大統領も最終電車の10年前に改革の提案を行おうとしています。具体的には、「年金給付を賃金スライドから物価スライドへ変更することにより、
給付の伸びを押さえる。一方で、給付減少への不満を和らげるために、年金保険料(payroll tax)の4%を新設の個人勘定に振り分けて株式投資を含めた運用先の分散を可能とし、その分リターンの増加が期待できるようにする。」というものです。
この裏には、
貯蓄率の低い家計部門の貯蓄率を上げるという政策意図もあるようです。もっとも、次のような辛口の批判も出ていました。
「わずか4%程度の部分的な運用ではベネフィットは少ないし、素人が株式投資をして損を被るリスクもある。小口の運用であるから、手数料の比率も高くなる。結局、
この制度改正で得をするのは、手数料が確実に稼げるウォール街である。」中には、ブッシュ共和党が民主党への最大献金元の一つであるウォール街を抱き込む高度な戦術だと
勘ぐる向きもあります。
最近では、ブッシュ政権の支持率の低下の中で、国民に不人気な年金改革の議論は先延ばししようとの動きになってきていますが、
政治家が選挙に不利な議論を先送りするのは洋の東西を問わないようです。
ちなみに、日本では、有権者に占める50歳以上人口の割合は2003年10月現在で既に50.4%となっています。国民年金の保険料の半分が支払われていないような状況で、
最終電車は既に発車してしまったのです。
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